夏は耳で知覚する。

夏は耳に、聴覚に訴えるものが多い気がする。蝉の声、高校野球のサイレンの音、風鈴、ラジオ体操の音楽、カキ氷を削る音。ひとたびこれらの音が耳に入った瞬間、たちどころにむそーは夏を感じてしまう。一瞬にして脳裏に、夏の情景が思い描かれる。他の季節では、パッと思い浮かぶ「音景(サウンドスケープ)」が思い出されない。きっと夏には、印象深い音景が多いのだ。でも、なんでなんだろう。
コップの中の氷が触れ合う音、ビールを飲むノドが鳴らす音、蚊の飛ぶ、プイ〜ンという音、花火。ほら、どんどん出てくる。不思議だ。たぶん、夏は暑過ぎて、他の感覚器官は麻痺してしまうのかもしれない。まぶしい日差しに目は細められ、ゆらめく空気に視界はぼやける。暑さであれもこれもにおい放つ中、繊細な香りなどはうやむやになり、繊細に感じ取れなくなる。冷たいものばかり欲しくなってしまう口は、舌を冷たさで麻痺させてしまっている。
そんな中、耳だけがいつもと相変わらず冷静に機能している。相対的に、耳の、聴覚の感度は他の感覚器官に比べて高くなっているのだ。だから、夏の「音」たちはいつもより注意深く観察され、印象的にとらえられるのかもしれない。
耳で知覚する、日本の夏。盆踊りの鐘、太鼓、笛の音。耳そばだてて、夏をきちんと、知覚してみませんか。