薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木

江國香織の小説。本日文庫化だったので購入。いろんな女性たちのいろんな物語。とりあえず、どんどん登場人物が出てくるので把握するのが大変。いまんとこ、土屋と衿の関係を好もしく(^^)思いましたです。
江國香織の文体が好きです。たとえば。

「きょうはクロちゃんは?」
陶子のさしだした札をうけとり、レジスターをあけながらエミ子が訊いた。壁にぶらさがっている色とりどりのりぼん、カウンターに置かれたハサミやボールペン、バスケットに入ったキャンディ。
「おるすばん」

訊いて、答えるまでの間に展開する情景描写。これが適度な「間」になっている。さらにこの質疑応答の意味に言及しないことによって、行動の意味の重さ(あるいは軽さ)から逃げようとしている。意味を追求しすぎない態度を表すことによって、シーン全体を無駄な重量を感じないようにする、というか。さらに、情景描写の字句に漢字を多く使っていない。漢字を多用すると、見た目にも文章は重くなる。その「重さを与える感じ」は、シーンの重みにもつながってしまう。
江國香織の、感覚なのかなあ。それとも計算なのかなあ。むそーは前者だと思う。感覚的に、無駄な重さを忌避する文章を書く「性向」があるのだろうと思う。
とまれ、久しぶりに読むのが楽しい本だ。どっぷり浸かりたいなと思う。