朝日新聞歌壇

なんかやったりやらなかったりですねー、このトピック。まあいいか。今日も面白い歌を。

  • ものうげなつとめかよひぢ いできたるいぬかきなでてけしきやはらぐ 逗子市 荒木陽一郎
  • 特養のテレビ桟敷に待つ人がいかに嘆かんこの春場所を 東京都 影山博
  • 乳房なき片の胸には春風をふふませ遥けき歌会に行く 筑西市 斎藤絢子
  • 長き夜の友となりたる湯豆腐に酒止めようかと呟きてをり 鴻巣市 佐久間正城
  • 老人は妻の遺骨を納め終えみなこうなると孫を見て言う 三原市 岡田独甫
  • わが裡の鬼は遣らはず住まはせて生き難き世の味方とはせむ 仙台市 坂本捷子
  • 「半額だった」鰯見せつつはしゃぐ妻その前髪に淡く雪載る 和泉市 長尾幹也
  • 後ろ手に祖父と並びて麦踏みき北向きて踏む理由を聞きつつ 半田市 安西洋子

いつもは面白い歌を列挙だけして寸評めいたものは書かないのですが、今回はちょっと書きたい。
一番はじめに掲げた逗子市、荒木陽一郎さんの歌。物憂げな気持ちで歩く通勤路にいる犬をかき撫でる、という歌ですが、この歌を読んで私は亡くなった祖父の読んだ歌を思い出さざるを得なかった。

  • 世に小さきわれのつとめの朝のみち 天の光はふりそそぎくる 杉山桐一

この祖父の気持ちと逗子市の荒木さんの気持ちには通ずるところがある。毎日の、朝の通勤路。祖父に指したのは天の光。荒木さんには犬が出てきた。「いぬかきなでてけしきやはらぐ」という下の句の、いぬとそれを含む景色、世界に対するほっこりとした感謝の気持ち。それは祖父が感じた天の光のあたたかさとそれへの祖父の感動と同じだったでしょう。誰も見ていないような小さな勤め人にもあたたかな光が差す。犬を通して世界が荒木さんを包んだあたたかさ。祖父と同じ空気が荒木さんの歌から感じられてうれしかったです。