エルサレムの村上春樹さん

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わたしが小説を書くとき常に心に留めているのは、高くて固い壁と、それにぶつかって壊れる卵のことだ。どちらが正しいか歴史が決めるにしても、わたしは常に卵の側に立つ。

壊れやすい卵の殻に包まれた人間の精神を踏みつぶすのは、それに正義があるにしても正しいことでない。人間の精神が壁にぶつかって壊れていく、そんなことは正当化されてはいけないのだ。

壁の名前は、制度である。制度はわたしたちを守るはずのものだが、時に自己増殖してわたしたちを殺し、わたしたちに他者を冷酷かつ効果的、組織的に殺させる。

私たちの精神ほど尊いものはない。それを押しつぶそうといういかなる論理や制度から、己を守ろうとすることは恥ずべきことでないのだ。それを断言してくれただけでも、村上春樹さんがエルサレムに行き、スピーチした意味があると思う。